千種、ねぇ千種。僕に赤ちゃんをください。



君の、と言われて狼狽した。
だって、そんなの無理な話です骸様。
俺も貴方も 男なのですから。
そう言えば骸様は大層悲しそうな顔をして笑った。
そう、とだけ言って無言で微笑んだ。
何故俺はこの人にこんな顔をさせなければいけないのだろう。
(言い出したのはこの人だけれど)

骸様、俺ではいけないのですか そう問うてみた。
少しの、淡い期待を抱きながら。
(俺を選んで欲しかった。俺が必要なのだと言ってもらいたかった。
そんな見もしない嬰児より、俺を選んでほしかった。
あぁ、なんて幼稚な思いなのだろう)

すると骸様は だめです、千種。君では駄目なのです。と、
きっぱりとそう言った。

俺は落胆した。

君では駄目なのです。僕は子供がほしい。身篭りたい。
淡々とそう言い連ねた。
母親になりたいのです、君の遺伝子の 母になりたい。

俺の髪に手をのばし、
さらりと風が撫ぜるように触れ、離れた白い細い指先が
やたらと目に焼き付いた。

あぁ、その指を掴んで 今すぐにでも 貴方を孕ませられたらいいのに。
無理矢理倒して、犯して、注ぎ込めば。
貴方は笑いますか?主君を辱めたと怒りますか?泣きますか?

ジクジクと膿む様な思いを植えつけて 貴方は出て行った。





出て行く間際に見えた口許は 三日月のようだった。





**2006.04.20. [PR]動画