呼ばれる 幸せ




「せーんぱーいぃー、ねぇねぇ先輩ってばー」

後ろから首に腕を回し構ってくれと言わんばかりにベタベタするイヌをひたすらに無視。
それでもいい加減鬱陶しくなって、先輩、と連呼する城島に声を掛ければ
パタパタと尻尾でも振り出しそうな状態で。
心中で溜息をこぼしつつ一つの申告。

「オレはお前の先輩じゃない」
「らって、俺アンタの名前知らないれす」

ニコニコしてた顔が一気に拗ねた顔に早変わりする様が愉快で、
くつくつと喉の奥で笑えば目を見開いて「笑った!」と騒ぐ。
人が笑った位でどうしてそこまで喜べるのか、今のオレには理解が出来なかった。

コイツは本当に年相応に子供だ。
(骸と柿本が年不相応な分更にコイツの子供っぽさは強調されてると思う)
それでも『普通』の子供とは違っているのだけど。


「・・・六道についてきて後悔したことはないのか?」
「へ・・?何れ??」

骸さんは俺の事拾ってくれたんれすよ?
その時から俺はあの人の為に生きてるんれす。
これ以上幸せな事なんか無いっしょ!

ニコニコと自慢気に喋る城島の顔は本当に誇らし気で。
見ているオレの方が苦しくなった。


骸に絶望を与えられたオレと希望を与えられた城島。
それでも一緒に居るのは予想外に辛くはなかった。


ぎゅう、とまた抱きついてきた城島の頭を撫でてやる。
コイツが何でオレに構ってくるのかがわからない。
けれど、懐く小動物に弱い自覚は・・ある。

「名前っ!名前教えてよせーんぱーい」
「知って何になる」

オレは『六道骸』だ。アイツの影武者、偽りの六道骸。
今の俺の存在価値はそれだけ。それで充分だ。
それ以外の何が今のオレに必要だというんだ。

「らーってさぁ、骸さんと一緒に居るときなんて呼べば良いのかわかんないんれすけどー」

ぎゅうぎゅう、と首に力。
いい加減にしてもらわないと首の骨が折れる・・。

「・・離せ」

低く、感情を抑えた声で言えば、するりと離れる腕。身体。
見た目にも落ち込んだ城島の腕を掴んで引き寄せる。




「ランチア」


「・・へ?」
「ランチア、だ。ラ ン チ ア」

久しく口に出していなかったその名。
今ではその名を知るのはオレと骸のみの、死にかけた名。
その名を何故オレはコイツに教えているのだろう。

「らん・・ちあ?」
「そうだ。ランチア」

らんちあ、らんちあ…と口内で何度も繰り返し、嬉しそうに笑う。

「・・・その名はオレと居る時にだけ使え」
「へ?何れれすか??」

先刻からチャーちゃんチャーちゃんと纏わりつく城島の首を掴んで部屋を出て行くのを止める。

「その名はオレと骸しか知らん。お前が知ってることはお前とオレの秘密だ」
「骸さんと・・チャーちゃんと俺らけ?」
「そうだ」

そう言えば一層嬉しそうに笑ってわかったと頷く。
そのにこにこと笑う顔が、俺にとっては少し痛く、温かかった。




















ヒトも物も名前に拠って存在を確定されている。

**2005.11.29.(20051109のブログより)

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