恨み哀しみ そして想う



「チャーちゃんは骸さんが嫌いなの?」




それは唐突に投げかけられた簡潔な疑問。
天気でも聞くように日常に挟まれた、少しの波紋で。
それでもそれを訊ねる城島の目は普段と変わらないままだった。

「いきなりどうしたんだ」

ふわふわとその髪を撫でれば甘えるように擦り寄ってくる。
その温かい体温は嫌いではなかった。

「本当に嫌いなのか、気になったらけ」

じっと見つめてくる瞳は探るわけでもなく、いつもの色だった。
そこには非難も軽蔑も含まれてはいない。


「骸さんのこと、嫌い?」
「・・・よく、わからない」


そう、オレ自身よくわかってないのだ。

「昔は・・憎かった。・・殺してやりたいと思ってた。
いや、それは今でも思ってる」


「でも嫌い・・では、ない」


「今はアイツが憎いのかどうかすらわからないんだ・・
オレの仲間を殺したのはアイツだ。
でも手を下したのはオレで・・本当は憎いのも殺したいのもオレ自身で・・
それを許してくれない骸にその感情を向けてるだけなのかもしれない」

「そう思ったらどうしようもなくて・・わからなくて、骸を殺してしまいたくて・・」
「殺す、の?」

そう訊く城島の目が始めて揺れた。
ふぅ、と息を吐いて落ち着かせ、城島を撫でる。
(慣れというのは怖いもので、最近ではこれが一種の精神安定剤になっている)

「・・・オレには骸を殺せやしないさ。アイツがそれを許さないだろ。それにお前も」
「ん・・」


俺は骸さんに死んれほしくないれすから


「きっと俺はあの人が助かるならアンタの邪魔して 死ねるよ」
「そうか」
「うん」

それは日常の会話のように、けれど、らしくなく淡々と交わされる。
それでも触れる髪も指も頬もいつもの通り、
温かく柔らかく、あの頃と同じようにゆったりとした時間。


そこでふと思う。
オレは何がしたいんだろうか。
骸を殺したい、のは真実。
でもその裏に潜んだ自分の感情がわからない。

こうなったのはアイツの能力の所為なのか、時間の所為なのか。
それすら曖昧で自分の感情すら疑ってしまう。
そうして頭痛。神経すら割れるような、頭の響き。



これを起こしているのがアイツの力なら、楽になれるのに。


「‥・ッ、」
「チャーちゃん・・?」

「なんでもない・・いつものことだ」
心配そうに覗く顔、頭をひと撫でして腕の中に閉じ込める。
こうしておけば衝動で傷つけることは、ない。
(『遊ぶ』時にすらそんなこと気にしないのに、おかしな話だと思った)


腕の中には血の匂いと太陽の匂いが混ざり合う、おかしな子供。
骸もこの匂いを感じているのだろうか・・
城島がかつての自分と同じ匂いをしていると気付いているのだろうか。


やはりアイツはオレに残された最後の『家族』なのだ。
憎んでるのにそれに縋る自分が居るのだ。

オレがアイツを許せる時がきたら教えてやろうか。


そうして幸せだったあの頃の昔話をして、撫でて、




そして・・・














チア犬でチア→骸(家族愛)

**2005.11.29.(20051117のブログより)

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