「せんせー!」
窓の外から聞こえる馬鹿でかい声。
若い者は元気で良いねぇ、なんて思っちまう辺りもう若くはないのかもしれないなんて。
・・いやいや、俺はまだまだ現役だ。
「せんせーってばー!シャマルせんせー!!」
「うるせぇよ。てか男に軽々しく呼ばれる筋合いはありません」
「いいじゃん、ここの保健の先生なんだから」
窓を開けると窓枠に寄りかかるように覗き込んでにかっと笑う山本。
年に似合わないガタイと胡散臭いほどに年相応な内面をしている。

(というか無邪気過ぎる・・と思うんだけどねぇ)

「で、用事はなんだ?」
「?」
「・・・・・まさか、用もないのにあんなに呼んでたのか・・?」
その言葉を裏付けるようにへらっと笑う。
「てめ・・こっちも暇じゃねぇっつってんだろうが」
「いいじゃん。どうせ女でも見てたんだろ?」
「違うっての」
「あ、じゃあエロ本だ」

「・・・・・・」
「あはは!あったりー!」

「っていうか部活動はどうした」
そうだ、なんでこの時間にこいつがこんなとこにいるんだ・・?
向こうに見えるグラウンドにはまだ野球部員が見える。
こいつが制服姿でここにいるのはおかしい。
「あ、忘れてた。これから病院なんだ」
「ふーん、馬鹿は風邪引かねぇって言うけどなー」
「違うって、こっち」

そういって掲げたのは腕。

「一応完治してはいるんだけどさー・・最近ちょっと疼く感じがしてっから」
そう言えば俺が赴任する前ちょっとしたごたごたがあったって聞いたな・・。
「ちょっと待ってろ」
「?うん」

そういって机の引出しを漁る。

「ホラ」
弧を描くように放り投げれば弾かずにキャッチする辺りは流石野球部というところか。
「・・ミルキー?」
「あぁ?不満かコラ。おこちゃまにはそれで十分だろが」
「いや、そうじゃなくて」
いただきます、と言って口に放り込む。

「何で飴なんてくれたんだ?」
「あ?・・イライラしてるように見えたからな。流石に牛乳なんてねぇし」
「・・・・・・」
「ママの味、ってことで我慢しとけよ」

「本当、先生って面白れぇ」

「あ?なんか言ったか?」
「なーんも!じゃまた明日ー」

ぶんぶんと腕を振りながら走ってく後姿にひらひらと手を振り返す。
はたと気付けばおかしいことこの上なくて。

(何で俺が男なんかに・・)

そう思ってても実際逢えば自然と会話してしまうんだから
仕方がないというか・・あのデカイ大型犬に懐かれた所為だ。
あんな笑顔で寄って来られたら。

(撫でてやらないわけにはいかねぇだろが)

ふぅ、とついた溜息は。
窓の外へ流れていった。









**2005.06.10
**2005.07.17・再 [PR]動画